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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(オ)3号 判決 1954年2月25日

主文

原判決を破棄する。

本件を仙台高等裁判所に差戻す。

理由

上告理由第一点について。

原判決は、「該農地につき自作農創設特別措置法三条一項一号、同法施行令二条により神谷村の区域に準ずるものとして承認及び指定を受けていないことは、控訴人(上告人)の主張からして明らかなところである」とし、「承認及び指定のないものである以上控訴人(上告人)を不在地主として取扱うべきことは当然」であると判示した。同法三条一項一号は、不在地主の小作地は原則としてすべて買収することに規定したが、農地の所有者がその住所のある市町村甲の区域に隣接する他市町村乙の区域内にある農地を所有する場合には、地形その他によつて実質上居住市町村甲の区域に準ずる農地までも、他市町村在の農地とし、当該農地所有者を不在地主とする不合理な結果を生ずることを考慮し、例外として市町村農地委員会が、隣接市町村の区域内の農地について、都道府県農地委員会の承認を得て当該市町村の区域に準ずるものとして指定したものは、これを居住市町村において所有する農地と同じ取扱をし買収をしないことに定めている。そして、同法施行令二条は、「市町村農地委員会は、自作農創設特別措置法三条一項一号の規定による指定をしようとするときは、当該隣接市町村に設けられた市町村農地委員会の同意を得て、都道府県農地委員会に承認を申請しなければならない」と規定した。原審における上告人の主張は、結局前記指定手続のとられなかつたのは違法でありこれに基いてなされた買収計画及び本件裁決は違法であるという趣旨に解される。被上告人の原審における答弁によれば、「控訴人(上告人)主張の字名の地域について神谷村農地委員会から隣接地の指定申請を被控訴人(被上告人)平市農地委員会に提出したことはあつたが、当時神谷村農地委員会及び平市農地委員会の双方から、互に入込んでいる土地を交換的に隣接地としてそれぞれ当該村又は市の区域に準ずるものとして指定することにつき、県農地委員会にその承認方を申請したけれども、結局承認を得られなかつたためその指定ができなかつたものである」ということになつているが、何故に指定の承認が得られなかつたかの理由については全然述べられていないのである。

同法が農地所有者の居住市町村の隣接町村の区域内の農地であつても、所有者の居住市町村に準ずる区域を予定して前記規定を設けたのは、地理的な関係等から農地買収に際し隣接町村内の農地でもこれを隣接町村の区域として取扱うことが地主に対して酷であると認めたと共に、かように不在地主として取扱わなくしたことは農地買収、小作農創設を主眼とする同法制定の趣旨に背馳しないと認めたからである。従つて、かかる場合に市町村農地委員会又は都道府県農地委員会が同法施行令二条に定める手続をなさず、ために在村地主の所有地と認めらるべき農地を、不在地主の農地として買収してしまうことは、同法三条一項一号でいわゆる準区域を規定した法律の精神に反するものと言わなければならぬ。されば、同法から見て客観的に準区域と認めらるべきものについては、農地委員会は準区域として指定承認すべき法律上の義務があり、この義務に反して買収をすることは違法であると解すべきである。農地所有者にはこの指定の申請又はこれに関する不服の道は、同法においても開かれていないのであり、また市町村農地委員会が指定の承認を申請せず、都道府県農地委員会が指定の承認をなさないとしても、これは行政庁内部の関係であつて外部に対する行政処分ではないから、これに対して独立に訴を提起することは現行法上は許されていない。それ故、買収計画が立てられ又は買収処分が行われた場合において、それに対する訴において前記承認ないし指定がなされなかつた違法を主張することができるものと解するを相当とする。買収について提起された訴訟において、農地委員会が自己の職責の不履行である前記指定ないし指定の承認がないことを自己に有利な事実として主張することは、所論のとおり甚だしく不合理である。それ故、原審は被上告人が前記指定承認をしなかつたことにつき前述の違法が存するか否かにつき審理を尽さなかつた違法があるから、この点の論旨は理由があり、その余の論旨は判断するまでもなく、原判決は破棄さるべきものである。

よつて民訴四〇七条、九五条、八九条に従い、全裁判官の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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